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最高裁判所第一小法廷 昭和34年(あ)949号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

理由

仙台高等検察庁検事長岡崎源一の上告趣意第一点は判例違反をいうが、引用の判例は本件と事案を異にするものであって本件に適切でないから、所論は前提を欠くものといわざるを得ないし、同第二点は、単なる法令違反、事実誤認の主張を出でないものであって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

しかし、職権をもって調査すると、原審は、本件吊橋を利用する者は夏から秋にかけて一日平均約二、三十人、冬から春にかけても一日平均二、三人を数える有様であったところ、右吊橋は腐朽甚しく、両三度に亘る補強にも拘らず通行の都度激しく動揺し、いつ落下するかも知れないような極めて危険な状態を呈していたとの事実を認定し、その動揺により通行者の生命、身体等に対し直接切迫した危険を及ぼしていたもの、すなわち通行者は刑法三七条一項にいわゆる「現在の危難」に直面していたと判断しているのである。しかし、記録によれば、右吊橋は二〇〇貫ないし三〇〇貫の荷馬車が通る場合には極めて危険であったが、人の通行には差支えなく(被告人若生の差戻前第二審公判の供述五二五丁以下、同工藤の供述五三七丁、証人石井藤七の原審における尋問調書六八三丁以下等参照)、しかも右の荷馬車も、村当局の重量制限を犯して時に通行する者があった程度であったことが窺える(被告人工藤の前掲供述、原審における証人渡辺平一の証言七一六丁等参照)のであって、果してしからば、本件吊橋の動揺による危険は、少くとも本件犯行当時たる昭和二八年二月二一日頃の冬期においては原審の認定する程に切迫したものではなかったのではないかと考えられる。更に、また原審は、被告人等の本件所為は右危険を防止するためやむことを得ざるに出でた行為であって、ただその程度を超えたものであると判断するのであるが、仮に本件吊橋が原審認定のように切迫した危険な状態にあったとしても、その危険を防止するためには、通行制限の強化その他適当な手段、方法を講ずる余地のないことはなく、本件におけるようにダイナマイトを使用してこれを爆破しなければ右危険を防止しえないものであったとは到底認められない。しからば被告人等の本件所為については、緊急避難を認める余地なく、従ってまた過剰避難も成立しえないものといわなければならない。

しかるに、原審は右と異る認定、判断の下に、爆発物取締罰則の適用につき法律上の減軽をなし、更に酌量減軽をして被告人両名を懲役二年に処し、三年間の執行猶予を附したことは、判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認の疑および法令の違反があって、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。

よって、刑訴四一一条一号、三号、四一三条本文に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七)

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